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研究ノート「都市のインテリア」  
 
       
   
  001 「どうぞ座って・・・」 Please take a sheet           「人間家族展」より
 
 
            
             
   運河の街アムステルダムで出会った風景、窓の下のベンチにPlease take a sheet ! のサインボードが添えられていた。どの家の前にもベンチがあるので自家用かと思って座るのを遠慮していたから、このサインは有り難かった。公園や緑道のベンチは、公共サービスの定番としてどの街でも普通に見られるが、個人の軒下が公共に公開されるケースは、言うは易くとも稀である。オランダの家に軒はないが、半地下住宅の玄関階段が外付けなので、ベンチが置かれている場所は個人の地所と分かる。もしも私権あるいはプライバシーを主張して例えば「鹿追い」などを置くと、歩道の幅はわずか90センチほどに減って歩きにくくなる。そこで個と共が語らって、お互いの利益のために境界を廃したのであろうか。ベンチの他には,その家のプランターや自転車(コウノトリに似たチャイルドシート自転車が素晴らしい)なども遠慮なく置かれている。

     
 
 
 
 個人と公共の境界領域を、何が収穫できるかよく耕してみよう-というのが「都市のインテリア」編集の眼目である。その場合、公共の場所を市民の活動のために開放するケース(開放型)が一般的であり、道路端や河岸緑地を近隣住民が花壇として利用する例などがよく見られる。近隣商店街の道路を、通過交通を抑制するために歩道舗装化した例などは、地域選出市会議員の面目躍如といったところである。リーダーの顔が見えない歩行者天国などは、よほど練れた市民のみが成しうる快挙であるといえよう。
 しかしそれとは間逆の私的権利の譲歩例(公開型か)は、人間活動の質的な比較として開放型よりやはり尊い。これがたまたまではなく線的面的に行われているとすれば、それこそ大事件であり、評判の街並みの陰(リンク参照)には必ずこれがある。先ほどのベンチに座ってしばし憩うと、絵のように美しい切妻屋並の、絵の一部になったような気がした。
 
 
 元祖都市のインテリアスポット<坂の街・尾道>には、坂道で疲れた観光客への私的サービスとして、民家の軒下にさりげなく古椅子を置くルールがある。狭い坂道ゆえに、どのケースでも狭い軒下にきちんと収まっている。右の写真は「世界一小さなパン屋」の前で撮ったもの、半畳の店内には冷たいドリンクも置いてあったから、販促の意図もあるかもしれない。坂下の商店街には、個人が道の真ん中にサロンを開設した事例がみられる。街路の合流点(K.リンチの言うノード・結節点を思わせる)の近く、無意味に広くなった道の真ん中に、手前側の古道具屋が売り物のソファーを置いて通行人の憩いの場を提供している。川の分岐点に中州ができるように、そこは意外と人もクルマも通らないことが確かめられているのであろうか、サロンはほぼ常設化している。   
 戦災を逃れた尾道では、引き返すことが困難なほどに細街路に依存した住宅化が進んでおり、法的にスタンダードな都市整備は不可能に近い。替って出てきたのがDIY型街づくりである。タイムスリップ感覚を味わうために若い観光客が多数訪れ、住民は人々をもてなすために智恵を絞り体を使って働いている。そしてここが肝心なところ、普通なら住民も高齢化して・・・と続くところであるが、尾道でDIY型街づくりを実践している住民には元観光客が居ついた新住民が多く含まれ、平均年齢が若い。街を映画のセットのように客観的に観て新しい被写体に再生する感覚-これが尾道型の都市のインテリア手法なのである。      

 
     ところで、美しい話には裏がある-とよく言うが、アムステルダムの写真のサインボードを後でよく読むと、小さく書いたbut ・・・の後に「窓のへやには赤ん坊が寝ているのでクサは吸わないで-」と続いていた。オランダでは大麻の購入はおとがめなしとのことであるが、「ウチのベンチでそれを用いるのはお断り」との宣言が、この親切なサインボードの主意であったらしい。
 さびついた放置自転車と共に、美しい街並みの悩みを垣間見た。
    


  C.アレクザンダー「パタン・ランゲージ」 からのコメント                    
242 玄関先のベンチ FRONT DOOR BENCH 
 ベンチはデザインよりも置き場所が肝心-と諭す 241 座る場所 SEAT SPOTS の最適解の提案。人は(とりわけ年寄りは)道を眺めるのが好きであるが、公的な道にずっと座っているのも落ち着かない。そこで公的な場と私的な場には段階設定が必要になる。私物のベンチを公私の境に置くと、誰にも分る安定的な半私的領域が形成される。公共側からみればベンチの寄付を受けたようなもの、民間活力の活用はまずベンチから。             
   
リンク:
                       
  美しい街と道                         
 
                          sleeping & reading (人間家族展より)
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  日本インテリア学会中国四国支部