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エコデザイン
美しい街と建築
013
- - - Aug./2000
佐々木ひろみ
松山東雲短期大学

■エッセイ to indexes

 建築家のなかには、海外へ出かけると、小高い丘の上から街全体を眺めることを趣味としていたり、それを自分の仕事を進めるための、一つの方法にしていたりする人が多い。眼下に広がる街を見ると、その都市の材質感や色彩、建物の形が一目瞭然だからである。
 世界の美しい街は、街角にたたずんでも、通りを散策しても、時がたつのを忘れるくらい楽しい。これは世界の美しい街に共通していることである。もう一つの共通点は、小高い場所から眺めると、建物の高さや材質、色彩、形などがそろっていることである。
 そろっているといっても、画一的で変化に乏しいそろい方ではない。個々の建物の細部は、それぞれ微妙な差異があっても、街全体としては統一感があり、調和が感じ取れるのである。
 美しい街を構成する建物は、建て主や住み手の要求を満たしながらも、建物群としていみた場合、ある枠からはみ出すような突飛な建物はない。
 古い時代には、その街が算出する建築材料や、知覚の街から調達できる材料が限られていたこともあろう。風土に適する構造や形に支配されてきたこともあろう。
 しかし、最も大きな理由は、その町に住む人々の、建物をそろえようと努力してきた意志である。建物をそろえることによって、街全体が美しくなることを知っていたからである。建物がそろえば、「顔をもった街」が形成され、他の街にはない個性が浮かび上がる。
 わたしはこのような美しい街をいくつか知っている。例えば、ギリシャのミコノス。紺碧のエーゲ海と、目にしみるような青い空の間に生まれたリゾートの街。敷石と白いしっくいが碁盤模様を作る楽しい道の両側に連なる民家。どの家も、どの家も、壁は真っ白なしっくいで塗られ、窓枠や玄関ドアは青や緑のペンキで鮮やかに彩られている。路地にいすを出し、新聞を読んでいる老人の姿や、ロバに乗った人の姿がみられたりする。おとぎの国に迷い込んだかのような美しい街である。
 白い壁、黄色い瓦の建物の街、スペインのグラナダも美しい。「シエナの赤」と呼ばれる瓦で街中の屋根が覆われた、イタリアのシエナも見事である。
 わが国では、古い町屋の街並みが美しい金沢や京都。江戸時代の宿場町の面影を残す、草葺き屋根の建物が美しい大内宿。
 建物が美しくそろった街並みは、洋の東西を問わず、ほとんどの場合、時代の要求や、街の経済活動、住む人々の豊かさの範囲の中で、建物に対する規制を何らかの形で行ってきたといわれている。する人々に心のつながりや、共同体意識をはぐくむことにもつながった。
 太陽と緑、温暖な気候・風土に恵まれた私たちの郷土は、住む人々の美しい街をつくりたいと願う心によって変わり始めるのだが。
(愛媛新聞「四季録」'99.3.25から転載)
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日本インテリア学会中国四国支部