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エコデザイン
青い目と蛍光灯
009
- - - Aug./2000
佐々木ひろみ
松山東雲短期大学

■エッセイ to indexes

 フィンランドのヘルシンキ市内のホテルの一室。静かな夜の街は、街灯とシグナルと車とライトを、雨で濡れた路面に反射させている。先ほどから日本の友人に当てて、絵はがきを書いていた私は、この部屋のあかりの暗さに、いらいらし始めていた。場末のホテルでもない、五つ星のホテルで、一体どうしたことなのであろうか。
 旅程は進み、スウェーデン、デンマーク、フランスのホテルにも投宿した。やはりどの国のホテルも、へやの照明は薄暗い。フロアスタンド、デスクライト、壁灯を、片っ端から点灯したのに。しかし、ヨーロッパでは、これがほどよい明るさなのかしら。
 蛍光灯で部屋のすみずみまでね均質に明るくすることに慣れきっていた者には、この暗さはカルチャーショックであった。ショックの中で、納得のいく理由を探した私は、こう結論づけた。ヨーロッパでは、省エネルギー対策が徹底していると。16年前の体験である。日本では、オイルショックの後遺症が、尾をひいていた時期であった。
 ところが、これは独断であったことを、思い知らされる出来事に最近出くわした。ある大学に勤める、青い目の教員の研究室でのことである。
 グレーのリノリウムの床、真っ白な壁と天井の無機質な研究室には、白熱灯の照明器具が、数個配置されていた。当初、部屋に配置されていた蛍光照明は、明るすぎて目が疲れるので、取り換えたのだという。私がヨーロッパのホテルで感じた違和感とは、正反対の違和感を、彼女は日本で経験していたのだ。
 青い目と黒い瞳では、光に対する反応が違うことを、私ははじめて知った。それは目の生理的条件の差異によるものらしい。彼女の説明によると、青い目はメラニン色素が少なく、光を敏感に感じるのだというのだ。黒い瞳はその反対である。
 してみると、青い目の人が、ほどよい明るさと感じている部屋では、黒い瞳の人はサングラスをかけて、物を見ているのに似ている。黒い瞳の人が、適度の明るさと感じている部屋では、青い目の人は、晴れた戸外で、読書するような不快感を覚えていることになる。
 エジソンが白熱電球を発明して以来、その恩恵をうけてきた人類が、目の色の違いで、快適な室内照明にこんな隔たりを感じていたとは。発明王もさぞや驚いていることであろう。
 秋の夜長は灯火のもとで、読書にふけるのもよい。「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」でもよんで、あかりの文化について、考えてみることにする。
(愛媛新聞「四季録」'98.10.29)から転載)
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日本インテリア学会中国四国支部